登山での遭難事故、怖いですよね。
登山は自然と向き合う活動なので、どんなに万端な準備を整えても、どんなに細心の注意を払っても、不足の事態が起こってしまう可能性は拭えません。
それでも、極限まで事故発生の確率を減らすための努力は必要と考えます。
今回は、過去に発生した山岳事故について、主要な原因を把握した上で各自への予防対策を解説していきます。
過去に発生した登山に関わる事故
それでは、過去に発生した登山に関わる事故事例について、警察庁生活安全局生活安全企画課で公開している「令和元年における山岳遭難の概況」という統計資料を元に、どんな原因でどれぐらいの頻度で山岳事故が発生しているのかについて検証してみます。
山岳遭難者数と推移
まずは、毎年の山岳遭難者の人数について見ていきます。
平成22年では2,396人だった遭難者総数は、令和元年には2,937人となっております。年度毎に多少増減はありますが、年々増加傾向にあることが見て取れます。グラフでみると以下のように一目瞭然です。
特に平成6~7年ごろに遭難者総数1,000人を超え、その後は加速度的に増加しているように読み取れます。
この時期に何か特別なイベントでもあったのでしょうか。
いろいろと調べてみると平成6年という年は、のちに発生する百名山ブームの火付け役と言われたNHK衛星の「日本百名山」という番組が放送されはじめた年のようです。
これにより、中高年登山者が爆発的に増え、それに比例する形で遭難者も増えていったというのが背景にあったということでしょう。
ちなみに、国内の登山者人口に対する遭難者の割合というのも気になるところだろうと思いますので、次はその点についてみていくことにします。
登山者全体に対する遭難者の割合
国内の登山者人口については、公益財団法人日本生産性本部が発行する「レジャー白書」という統計資料に掲載があります。
この資料は、毎年の国内レジャー活動への参加人口や参加率の統計をまとめたものとなっており、登山への参加人数についてもグラフにまとまって掲載されています。
最新版を入手していないので、直近の数値が把握できていませんが、平成6年時点でだいたい550万人、その時点の遭難者が1,000人ということですので「1,000人÷550万人」となり、この年での登山者全体に対する遭難者の割合は0.018%となります。
割合にしてしまうと微々たるものですが、自分自身がこの数値に入ることは生涯通じて絶対に避けたいものです。
遭難の原因とその比率
次に遭難する原因となった状況と、それぞれの比率についてみていきます。
遭難原因の第一位は圧倒的多数を占める道迷いによるもので、令和元年時点で1,142名と全体の約1/3にも及びます。以下、滑落、転倒、疲労という順に続いており、個人の技術や経験、体力といったものが要因となるものが多い傾向が見て取れます。
個人的に目についたのは、野生動物襲撃の62名。天候不順や落石といった要因よりも被害を被った人数が多い点が意外に感じました。この点はまた別の機会に調べてみたいところです。
これら原因別の遭難者についても同書内でグラフ化されていますので掲載しておきます。
原因別の予防対処
ここまでの内容で、どのような原因で山岳遭難が発生しやすいかということが分かってきました。
続いては、それぞれの遭難原因について、有効と考える予防対策を解説していきます。
道迷いによる遭難への予防対策
遭難原因別の予防対策一つ目は「道迷いによる遭難への予防対策」です。
これは、GPS機器を携帯して、常に現在地を把握しておくということになります。
GPS機器と言われてもピンと来ないかもしれませんが、iPhoneやAndroidといったスマートフォン携帯であれば、ほぼすべての機種に付いている機能です。他にもGPS付きの腕時計や、そのものずばりのGPS受信器なんてものもありますが、スマートフォンが一番扱いやすく入手もしやすいでしょう。
これらを携帯して、こまめに現在地点を把握するというのが道迷いに対する強力な予防策となります。
そして大事な点としては、こまめに把握するという点です。
GPSは、衛星回線を使って電波のやり取りをして位置把握することになるので、木々の生い茂った森林部ではうまく機能しません。このような場所で道迷いに陥ってしまうと流石に位置把握が難しくなるので、どのあたりを歩いているのかというのは常に把握できるようにしておく必要があります。
また、当たり前の話となりますが、これら機器は電子機器ですので、バッテリーが切れていたら活用できません。加えて、衝撃や漏水に弱く、落下や水没などで山行途中に動かなくなってしまうということも考えられます。
予備バッテリーの持参や落下防止等の対処も大事ですが、それらと合わせて読図について学習しておくことも重要です。
紙の地図やコンパスはアナログである分、突発事故には強いです。多少の雨風や衝撃を受けても機能不全に陥るようなことはありません。これらの使い方を学んで、万が一、GPS機器が使えなくなったときの代替として活用できる状況にしておくことをお勧めします。
道迷いによる遭難予防策について、更に深堀りした記事もあります。興味ありましたら、こちらも読んでみてください。
滑落、転落による遭難への予防対策
遭難原因別の予防対策二つ目は「滑落、転落による遭難への予防対策」です。
これには2つあります。
一つ目は、足や体幹の筋肉を鍛えたり、維持したりという点です。
滑落、転落を起こす状況は、その場のコンディションということもありますが、滑ったり躓いたときに踏ん張りきれない脚力の弱さや、いざバランスを崩したときに元に戻せない体幹筋肉の衰えにあると考えます。
トップアスリートのようにガチガチに鍛え上げた筋肉は必要ありません。
立ったままの姿勢で、どこにも掴まらないで靴下の脱着ができる程度の筋力があれば十分です。
日ごろの生活の中で、積極的に階段を使ったり、一駅多めに歩いたりといった工夫をしてみると良いでしょう。
一番のおすすめは、定期的に登山することです。
良く言われることですが「登山することが次の登山への訓練」というのは本当に正しいです。
わたしも、毎週のように登山をしていることで、集中した筋トレなど必要無く体力維持ができています。是非取り入れてみてください。
二つ目は、足回り装備の強化やメンテナンスを怠らないという点です。
特に登山靴ということになりますが、靴底がすり減っていたり、外れかかっていたりしては、グリップ力が衰えて踏ん張りが効かなくなってしまいます。
また、足と合わない靴をそのままに使っていると、足を痛めて不安定な歩き方になってしまいます。
このような状態を避けられるように、常にメンテナンスを怠らず、また自分に合った靴を選んで準備するということが、滑落や転落を防ぐためにも大事となってきます。
なお、足回りの装備というとストックの導入を考えるかもしれませんが、わたしはお勧めしていません。理由は、ストックに頼りきってしまうと逆に危険が増えるという点にあります。
この辺りは別の記事で解説しているので、そちらをご確認ください。
また、転倒や滑落による遭難予防策について、更に深堀りした記事もあります。興味ありましたら、こちらも読んでみてください。
疲労による遭難への予防対策
遭難原因別の予防対策三つ目は「疲労による遭難への予防対策」です。
この点への予防対策は、自分の技術や体力に見合った適切な登山計画を立案し、実行するという点にあります。
真偽のほどは確かではありませんが、一時期、頂上まで登ったものの疲労困憊して下山できず救助ヘリを呼んで下山した中高年登山者が話題になったことがあります。
過去、わたしも夏の鳳凰三山でバテバテとなったツアー登山客十数名が山道の中央に数珠繋ぎにしゃがみこんで移動を妨げられたことがありました。
これは、これから自分が向かう山のレベルを把握していないことで、分不相応な山行を強いられて疲労困憊となり行動不能に陥ってしまった例だと考えます。
直近に行った山行を思い出しながら自分の手で山行計画を立案し、そのとおりに実行してみることで、今の自分の状況というのが把握できます。そのうえで、自分の思い込みを訂正していき適正な山行を行えるようになっていけば、疲労が原因の遭難などといった状況は起こさなくて済むようになります。是非、取り入れてもらいたいものです。
疲労による遭難予防策について、更に深堀りした記事もあります。興味ありましたら、こちらも読んでみてください。
体調不良による遭難への予防対策
遭難原因別の予防対策四つ目は「体調不良による遭難への予防対策」です。
この点への予防対策は、日々の体調管理というのもありますが、ここでは日差しや外気への服装による対策ということで解説をしていきます。
山行中の体調不良として考えられるものとしては、強烈な日差しや高温多湿による熱中症や、長期間雨風を受けたことで生じる低体温症というものがあります。
これらが発症するとめまいや吐き気、思考低下などの症状に見舞われてしまい行動不能に陥る恐れがあります。
熱中症への予防対策であれば、日差しを遮るための帽子を着用したり、厚さ軽減のために薄手で通気性の高い服を着用するといったものが有効です。
低体温症への予防対策であれば、風を防ぐための防風着や雨具を羽織ったり、寒さを軽減するために保温性の高いフリースやダウンジャケットを着こんだりといった対策が有効です。
いずれの対策も、山行の際に着用する服装で対応することが一般的です。
特に、複数の異なった性能の衣類を脱着することで体温調整するレイヤリングという考え方がベースとなりますので、もし把握してないようであれば次の記事にまとめてますので合わせて読んでみてください。
また、遭難に繋がりやすい病気として、高山病、熱中症、低体温症の3つについて深堀りした記事もあります。興味ありましたら、こちらの記事も読んでみてください。
その他の原因による遭難への予防対策
遭難原因別の予防対策最後は「その他の原因による遭難への予防対策」です。
このカテゴリに含まれるものには、転落、落石、雪崩や天候不順、野生動物の襲来といった独力では防ぎきることは不可能な事象が多く含まれます。
このため、予め打てる対策というのも限られてきます。
その中で敢えて予防対策として挙げるとしたら、天気予報や現地コンディションの確認などの情報収集をしっかりと行うということになります。
例えが極端ではありますが、当日の予報が台風だったら山行延期にするでしょうし、同じ月に熊に襲われた人が出ているような山域に対して無防備に踏み込んだりはしないでしょう。
毎週のように赴いている山域だからと安心せずに、常に情報のアンテナを立てておくというのが重要になってくるかと考えます。
まとめ
今回は過去に発生した山岳事故を元に、それらに対する予防対策を解説してみました。
山岳事故というと、自分の生命を脅かすだけでなく多くの人々に迷惑をかけてしまう、絶対に起こしたくない事象です。
今回解説した予防対策を取り入れて、安心安全な山行を楽しんでもらえたら幸いです。
それでは、ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
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