山の遭難理由に「病気」というのがあります。
もともとの持病が悪化して停滞を余儀なくされるシーンもあるかと思いますが、今回は山中で罹ってしまう恐れのある3つの病気に焦点を当てて、原因や症状を解説していきます。
後半には、それぞれの病気に罹らないようにするための予防策も紹介しますので、山行中の予備知識としてお読みくだされば幸いです。
山で罹りやすい3つの病気
早速、山で罹りやすい病気のうち代表的な3つについて解説していきます。
高山病
山で罹ってしまう代表的な病気の一つ目は「高山病」です。
この病気は、山で患ってしまう病気の代名詞とも言える病となりますが、飛行機に乗って高高度に至った場合にも発症する可能性があります。
まずは原因について、その後、発病した際に現れる症状について説明していきます。
高山病に罹ってしまう主な原因
高山病に罹ってしまう原因は、酸欠です。
山をはじめとする高所では、気圧が下がる影響で空気は薄くなります。
そうなると、空気中の酸素の量も減っていくことになります。
この酸素減少のペースに体がついていけない状態になると、様々な負の症状が発症していくことになります。
良く言われる基準としては、標高2,500mを超えたあたりからが発症しやすいということのようですが、日本の本州でみた場合、概ね森林限界となる高さに匹敵します。
年齢差やその日の体調にも左右されますが、山行で高度を上げていく中で高い木々が減ってきたと感じたら高山病を意識し始めると良いかもしれませんね。
高山病に罹ってしまったときに現れる主な症状
続いては、高山病に罹ってしまったときに発症する主な症状について説明していきます。
高山病はその重症度合いの軽い順に、急性高山病(山酔い)、高所肺水腫、高所脳浮腫の3つの段階に分けられます。以下、それぞれの症状です。
急性高山病(山酔い)
一番軽い段階に当たります。主な症状は、頭痛でこれに加えて次の症状が複数重なるように発症します。
具体的には「厚生労働省・関西空港検疫所HP」に記載がありますので、引用を掲載します。
・食欲低下、悪心・嘔吐などの消化器症状
・全身倦怠感や脱力感
・立ちくらみやめまい
・眠れない、息苦しい、何度も目が覚めるなどの睡眠障害
引用:「厚生労働省・関西空港検疫所HP」
高所肺水腫
二段階目に当たります。一段階目の症状に加えてさらに重度な症状が重なるようになります。
具体的な症状は、前出「厚生労働省・関西空港検疫所HP」からの引用を掲載しておきます。
安静時の呼吸困難、せき、歩行困難、胸部圧迫感(胸を締めつけられるような感じ)、頻脈(脈が速い)といった症状が現れます
引用:「厚生労働省・関西空港検疫所HP」
高所脳浮腫
最終段階に当たります。この段階までくると命に関わるほどの重篤な状態です。
放置すると、ほぼ間違いなく死に至ることになるので、この段階になる前に医師による適切な処置が必要となってきます。
こちらの症状も、前出「厚生労働省・関西空港検疫所HP」からの引用を掲載しておきます。
運動失調(まっすぐ歩けない)。見当識障害(日時や場所がわからなくなる)
引用:「厚生労働省・関西空港検疫所HP」
高山病に罹ってしまったときの応急処置
高山病に罹ってしまったときの応急処置の方法についても説明しておきます。
何はともあれ、速やかに下山することです。
高度を下げて空気中の酸素濃度が戻ってこれば、改善していきます。
下山まで行かなくとも、まずは森林限界まで降ってしまうのが良いでしょう。
高山病に対しては、さらに突っ込んだ記事もあります。こちらも合わせてご覧いただけると、もっと詳しいところ分かっていただけるかと思います。
熱中症
山で罹ってしまう代表的な病気の二つ目は「熱中症」です。
この病気は、夏の炎天下に患ってしまう病気とのイメージがあるかと思いますが、山中では夏以外の季節でも発症することがあります。
ここでも、原因、発病した際に現れる症状という順に説明していきます。
熱中症に罹ってしまう主な原因
熱中症に罹ってしまう主な原因は、次の3つです。
- 外気温の上昇(環境による要因)
- 自律神経の失調(からだによる要因)
- 激しい行動(行動による要因)
詳しくは「環境省・熱中症予防情報サイト」に掲載がありますので、同サイトからの引用を掲載しておきます。
環境による要因
からだによる要因
行動による要因
熱中症に罹ってしまったときに現れる主な症状
続いては、熱中症に罹ってしまったときに発症する主な症状について説明していきます。
具体的には、次のような自覚症状が出てきたら熱中症を疑って対策を講じるのが良いでしょう。
- めまい、顔や体が火照る
- 筋肉痛、足がつる
- 倦怠感、吐き気
- 大量発汗もしくは、発汗が全く無い
- 皮膚が熱い、表面がやけど状態
- 意識の混濁、歩行困難
熱中症に罹ってしまったときの応急処置
熱中症に罹ってしまったときの応急処置の方法についても説明しておきます。
- 日陰で安静にする(うちわなどで扇ぐと、尚良い)
- 体を冷やす(肌から血管の距離が近い首筋、脇、腿の付根を冷やすのが効果的)
- 水分・塩分を補給する(水よりもスポーツドリングや食塩水が良い)
熱中症に対しては、さらに突っ込んだ記事もあります。こちらも合わせてご覧いただけると、もっと詳しいところ分かっていただけるかと思います。
低体温症
山で罹ってしまう代表的な病気の三つ目は「低体温症」です。
2002年7月のトムラウシ遭難事件でメジャーとなったこの病気、名前だけみると冬の寒い時期に罹るようなイメージですが、山では一年を通してどのタイミングでも罹る可能性があります。
原因、発病後の症状の順で説明していきます。
低体温症に罹ってしまう主な原因
低体温症の主な原因は、急激な体温低下です。
これが山中で起こるシーンを考えると以下のような状況が思い浮かびます。
- 降雨で濡れた服のまま、風のある山頂や稜線で停滞する
- 大量発汗で濡れた服のまま、風のある山頂や稜線で停滞する
- 薄着のまま、極寒地に停滞する
低体温症に罹ってしまったときに現れる主な症状
続いて、低体温症に罹ってしまったときに発症する主な症状について説明していきます。
低体温症は、体内温度により以下の3段階に進行していきます。
軽度
体温:35~32℃
症状:呂律が回らない、長期間の震え
中度
体温:32~28℃
症状:意識不明、震えが止まる
高度
体温:28℃以下
症状:昏倒
軽度の状態であれば、まだ自力で平熱まで戻せる可能がありますが、中度以降は身震いすることもできなくなり急激に体温が下がっていきます。
そして、高度の状態のまま放置されることで死に至ります。
低体温症に罹ってしまったときの応急処置
低体温症に罹ってしまったときの応急処置の方法についてです。
- 濡れた服を着替え、防寒着を羽織る
- 風の無い暖かい場所に移る
- 暖かい飲み物や食事を摂取する
山で発病するそれぞれの病気についての予防策
山で発病してしまう主な3つの病気について、原因や症状といった点を把握してもらえたかと思います。
ここからは、それぞれの病気に罹らないための予防策について説明していきます。
高山病に罹らないための予防策
まずは高山病に罹らないための予防策について説明していきます。
高山病の主な原因は、酸欠です。
このため、急激な高度上昇や、血中酸素の低下を起こさないことが予防策となります。
具体的には次のような行動となります。
- 山中はゆっくり歩く
- 荷物は軽くする
- 前日および山行中の飲酒、夜更かしを控える
熱中症に罹らないための予防策
続いては熱中症に罹らないための予防策について説明していきます。
熱中症の主な原因は、外気温の上昇、自律神経の失調、激しい行動となりますので、具体的には次の行動で防ぐのが効率的です。
- 通気性の優れた服装、UVカット付きの帽子やアームゲーターを使う
- 基礎体力の維持、規則正しい生活を心がける
- こまめな水分補給、休憩を取る
低体温症に罹らないための予防策
最後に低体温症に罹らないための予防策について説明していきます。
低体温症の主な原因は、急激な体温低下温ですので、以下の対策が効果的です。
- 雨具や防寒着を持参し、必要により着用する
- 濡れた服は、可能な限りすぐに着替える
- お湯もしくは、お湯の沸かせる装備を持参する
- 冷たい雨風は避ける
- 天気予報が悪いときの登山は避ける
まとめ
山中で罹ってしまい、場合によっては遭難に至る可能性がある病気について解説していきました。
街中と違って、山中には病院もすぐに駆けつけてくれる救急車もありませんので、病気で停滞せざるを得ない状況は、即遭難につながる恐れがあります。
そのような状況に陥らないように、今回紹介した予防策をうまく使って安全な山行をお楽しみくださいね。
最後に、過去発生した山岳事故を元に原因別の対策などをまとめた記事もあります。興味ありましたら、こちらも読んでいってくださいね。
それでは、ここまでお読みくださりありがとうございます。
コメント