15年も登山を続けていると色々なことが起こります。
30代の若かり頃、軽度ではあるものの低体温症に罹ったことがありました。
山の先輩達から、秋季の槍ヶ岳縦走に誘われてご一緒した時のお話です。
新穂高から鏡平を越えて双六岳に向かう途中で豪雨に見舞われて、雨具もつけずに歩き続けたところ、身体の震えが止まらなくなりました。
しかも、わたし自身は震えている感覚が全く無く、先輩達から言われて初めて気付くような状態で、急かされ、急かされ、双六小屋のテント場に入り、熱々のうどんと豚鍋をたらふく食べさせてもらって、事なきを得ることができたという経験をしました。
それ以来、強烈な寒さを感じた時には意識して飲み食いするようになり、今のところ、再度の低体温症になるような事態は避けられています。
ここ最近になって、夏の低山でも「低体温症」で遭難というニュースを耳にすることが出てきました。
良い機会なので、当時のことを思い返しつつ「低体温症」についての予防策、掛かってしまった時の対策方法について、おさらいしていきたいと思います。
一緒に低体温症について知見を深めていってもらえれば幸いです。
なお、わたしは医療の専門家では無いので、より正確性を求めるようでしたら、専門家の持つ情報ソースも併せて確認しつつ眺めてもらえたらと思います。
それでは、最後までお読みください。
低体温症とは
まずは低体温症とはどのような病気か、基本的な症状について述べていきます。
以前書いた「熱中症」についての記事でも述べていますが、人間の身体は、周囲の気温が変化しても、体内温度を一定に保つ適応力というものを持っています。
このため、体内温度が一定まで低下すると、無意識に筋肉を収縮させることで熱生産を起こし、一定温度に保とうと働きます。
しかし、収縮活動が長く続いたことで熱生産に必要なエネルギーが枯渇してしまうと、徐々に体温が低下し始め、意識障害や全身の臓器障害などを引き起こすようになり、最終ステージとして生命活動が停止することとなります。
そして、体温が低下していく中、身体の深部温度が35℃を下回った時点で「偶発性低体温症」、一般的に「低体温症」と呼ばれる症状にあると判断されます。
低体温症の主な症状
続いて、低体温症の主な症状についてです。
ここでは、低体温症の進行を図るための代表的な指標「Swiss staging system of hypothermia」を元に、4段階の重症度に分類した表を示します。
震え
身体の奥まったところの温度「深部体温」が35℃まで低下すると、無意識の震えが生じるようになります。
しかし、重症度がⅠ度(軽度)の時には震えていた身体も、Ⅱ度(中度)を越えてくると消失してしまい、急激に体温が低下していくことになります。
そして、筋や関節の硬化が始まり、Ⅳ度(重度)に至ると死後硬直の様相を呈するようになります。
意識
重症度がⅠ度(軽度)の状態であれば中枢神経機能、意識レベルは正常を保っていますが、Ⅱ度(中度)を越えて、体温が30℃に近づくにつれて以下のような症状が出始めます。
- 錯乱
- 健忘
- 判断力低下
- 無気力
- 感覚麻痺
- 奇異性脱衣行為(暑いと錯覚し衣類を脱いでしまう行為。新田次郎著「八甲田山死の彷徨」に詳しい)
- 言語障害
- 意識低下
そして、体温が30℃を下回ると昏睡状態に陥ります。
バイタルサイン(呼吸と脈)
呼吸や脈拍も、Ⅰ度(軽度)の段階では正常を保っていますが、Ⅱ度(中度)を越えてくると以下のような症状が出始めます。
- 徐脈(脈が遅くなる)
- 心房細動(心臓の上の部屋「心房」が痙攣。血液を上手く送れなくなる)
- 心室細動(心臓の下の部屋「心室」が痙攣。心停止と同様の状態)
また、深部体温が32℃以下になると「心停止」のリスクが増加し、28℃以下では著しく高くなると言われます。
参考書籍
低体温症を発症しやすい人の特徴
ここでは、熱中症を発症しやすい人の特徴について述べていきます。
あなたにも当てはまる項目があったら、ご注意ください。
- 高齢者
- 外傷あり
- 飲酒あり
- 内服薬剤あり
- 疾患持ち
これらに加えて、外的要因として次のような環境下で、更なる発症リスクがあるそうです。
- 慣例曝露(寒さに晒される)
- 雪崩埋没
- 溺水
「雪崩埋没」以外、低山登山でも不注意により出くわす可能性は十分にあります。
例え、標高の低い里山であっても、周囲環境への注意は怠らないようにしたいところです。
低体温症にならないための9つの予防策
低体温症の症状について基本的なことがわかったところで、ここからは、低体温症にならないための予防策9つを紹介していきます。
- 低体温症についての知識を深める
- 十分なカロリー摂取を行う
- こまめな水分摂取を行う
- 適宜、保温する
- 防風、防水を心掛ける
- 重ね着する
- 休憩の際、雨風雪を避ける
- 汗をかいたままにしない
- 仲間同士気に掛ける
低体温症についての知識を深める
低体温症にならないための予防策の一つ目は「低体温症についての知識を深める」です。
何事も誤った対応を取っていては、状況は悪化する一方です。
低体温症についても、予め正しい知識を学んでおくことが予防に繋がります。
本記事を参考に、予防に有効な手段を把握してみてください。
十分なカロリー摂取を行う
低体温症にならないための予防策の二つ目は「十分なカロリー摂取を行う」です。
低体温症の初期状態では、震えによる体温維持が発生します。
この時に、体内に熱を起こすのに足るエネルギーが無いと、重症度のステージが進んでしまい取り返しのつかないことにもなりかねません。
特に登山活動は、多くのエネルギーを消費しますので、必要十分なカロリー摂取を行うことは、低体温症の予防にも繋がります。
面倒くさがらずに、定期的に行動食などで補うようにしてください。
こまめな水分摂取を行う
低体温症にならないための予防策の三つ目は「十分な水分摂取を行う」です。
人間の身体は、体温が下がってくると利尿作用が働きます。
これは普段生活している中でも起きるので、よく分かると思います。
そのほか、体内の水分バランスが崩れて脱水症状になりやすくなります。
脱水症状に陥ると、体内の温度調整機能が不調となり、体温を上げる働きも弱めてしまいます。
このため、暖かく無くても良いので、こまめな水分摂取を行うようにしてください。
適宜、保温する
低体温症にならないための予防策の四つ目は「適宜、保温する」です。
寒さを感じたら、我慢せずに衣類を重ね着するなど、適宜保温に努めるようにすることも、低体温症の予防には有効です。
特に、頭や首筋については露出しっぱなしとなることが多いです。
この辺りもカバーすると、かなり暖かさが違うので、気をつけてみてください。
わたしは、コロナ禍をキッカケにネックゲイターを常時使うようになったのですが、前後での保温性にはかなりの違いを感じてます。
特に冬場は、ネックゲイターで首元を覆っているだけでかなり暖かく感じているので、もしあなたが寒がりだったり、低血圧だったりするならば、更におすすめです。
以下、わたしが愛用しているBuffのネックゲイターについての記事を載せておくので、興味ありましたら併せてご確認ください。
防風、防水を心掛ける
低体温症にならないための予防策の五つ目は「防風、防水を心掛ける」です。
一般的に、風速1mにつき体感温度は1℃下がると言われています。
また、雨などで濡れた衣類を長時間肌に纏わり付かせておくと、それだけで体温を奪っていく要因になります。
このような外的要因による体温低下を防ぐことも、低体温症の予防には大切です。
適宜、ウィンドブレーカーやレインウェアなどで、身体が冷えてしまう要因を排除していくように心がけください。
重ね着する
低体温症にならないための予防策の六つ目は「重ね着する」です。
前出の「適宜、保温する」に被ってくる内容ですが、重ね着は低体温症予防にとても有効な手段です。
登山活動は体温のアップダウンがとても激しい活動です。
活動中は激しく身体を動かすことになるので、体温が高くなりますが、停滞中は外気に冷やされて低くなります。
この時に、冷やされるまま放置してしまうと、必要以上に身体が冷えて低体温症になってしまうリスクが生じます。
これらリスク軽減のため、寒さを感じる手前で小まめに重ね着をして対処するようにしてください。
以下の記事に山の服装についてまとめています。興味ありましたら併せてご覧ください。
休憩の際、雨風雪を避ける
低体温症にならないための予防策の七つ目は「休憩の際、雨風雪を避ける」です。
雨風雪などを伴う外気に触れたままの状態というのは、体温を奪う原因になります。
特に、雨や雪で身体が濡れた状態のまま、風に煽られ続けると、思っていた以上の速さで体温が奪われてしまいます。
活動中であれば、体内からの放熱により涼しい程度に済むことの方が多いですが、停滞中はそうはいきません。
放熱のないまま、体温を奪われていき結果、低体温症を発症してしまうリスクが生じます。
休憩は、できるだけ山小屋やあずま屋といった外気を避けられる場所で休むようにするのが良いでしょう。
汗をかいたままにしない
低体温症にならないための予防策の八つ目は「汗をかいたままにしない」です。
雨や雪などと同じですが、汗をかいて衣類が濡れたままの状態で放置すると、そのことでも体温を奪われます。
特に肌に直接触れるインナーウェアが濡れた状態は、全身の体温を奪っていくことになり、結果、低体温症を発症することになりかねません。
タオルや手拭いを持っているのなら、適宜、汗を拭き取ったり、大量発汗の際には着替えたりといった対応をとることも、低体温症の予防に繋がりますので、意識しておくと良いでしょう。
仲間同士気に掛ける
低体温症にならないための予防策の九つ目は「仲間同士気に掛ける」です。
冒頭で挙げた例のように、登山の最中は、自分自身でも気がつかないまま、低体温症に片足突っ込んでいる状態になることも有り得ます。
このため、山にはグループで入るようにして、お互いに気に掛け合うことも低体温症の予防となります。
ただ、この点については単独登山をメインとする層には難しいかもしれません。
わたしも先輩方が引退してからは単独行しかしていないので、自分で気遣うしかないのがなかなか痛いところです。
今後、グループで登山する機会ができた時には、お互いに気に掛けるようにしたいですね。
低体温症になってしまった時の3つの対応策
低体温症にならないための予防策9つを挙げてきました。
これらを実践することで、概ね低体温症は防げるだろうと思いますが、100%完璧に防げるというわけにはいきません。
状況によっては、低体温症の疑いある状況に陥るかもしれません。
そこで、万が一、低体温症になってしまった場合に有効な3つの対応策についても述べておきます。
- 今以上の体温喪失を防ぐ
- 暖かい食事を摂る
- 下山する
今以上の体温喪失を防ぐ
低体温症になってしまったときの対応策の一つ目は「今以上の体温喪失を防ぐ」です。
自覚症状が出てしまったら、何はともあれ体温低下を防ぐための対策を講じてください。
具体的には、以下のような手段が有効です。
- 岩陰や木陰、テント、小屋など外気から離れる
- 地面に直に座らずに、ザックやマットなどをあいだに敷く
- インナーが湿っていたら着替える
- 防寒着だけでなく、レインウェアも羽織る
- 湯たんぽを作って心臓近くに当てる
わたしの経験的に見ると、この中では「インナーが湿っていたら着替える」というのが、一番の効果がありました。
ピラティスにお湯を入れて作ってもらった簡易湯たんぽも試したことあるのですが、どうも身体の表面ばかりが温まる感じで、底冷え解消には至らなかった印象です。
それよりも、暖かい食事を撮ることで身体の内側から温める方が、何十倍も効果がありました。
ただ、そうはいっても、山の中で暖かい食事を用意するのはなかなかに手間がかかります。
まずは上記の手段で体温低下を防いだ後に、諸々の準備に取り掛かる流れが現実的でしょう。
暖かい食事を摂る
低体温症になってしまったときの対応策の二つ目は「暖かい食事を摂る」です。
「食べる」という行為はやはりスゴイです。
導入文でお話しした「槍ヶ岳縦走」の際にも、どれだけ着込んでも、湯たんぽで体外から暖かくしてみても止まらなかった身体の震えが、熱々のうどんを一杯食べただけで、スッと収まっていました。
その後、談笑しながら豚鍋を突いているうちに、いつの間にか額に汗が滲むくらい体温も体力も回復していました。
もし、低体温症への自覚が出てきたら、なるべく早い檀家で暖かい食事や暖かい飲み物を摂取して、身体の内側から熱を出すことを意識してみてください。
下山する
低体温症になってしまったときの対応策の三つ目は「下山する」です。
これは低体温症に限ったお話ではないですが、体調に異変を感じたら、速やかに山を降りるのが正解です。
折角ここまで登ったのだからとか、我慢すればもう少しいけそうだとか、変に頑張ると状況がもっと悪くなる恐れがあります。
余力のあるうちに、速やかに下山するようにしてくださいね。
まとめ
- 低体温症についての知識を深める
- 十分なカロリー摂取を行う
- こまめな水分摂取を行う
- 適宜、保温する
- 防風、防水を心掛ける
- 重ね着する
- 休憩の際、雨風雪を避ける
- 汗をかいたままにしない
- 仲間同士気に掛ける
- 速やか下山する
- 身体を温める
- エネルギー補給する
「低体温症」についての予防策9つと、対応策3つを紹介してきました。
低体温症の罹りはじめは、本当に自覚無くはじまります。
当時、黙々と歩いていたつもりだったのですが、後ろから見たらすぐにわかるぐらいブルブルと身体を震わせていたと聞いて、びっくりしたものです。
ここ最近では、夏山でも頻繁に聞くようになった病状ですので、ここで示した予防、対策を参考に、安全な登山をお楽しみくださいね。
それでは、ここまでお読みくださりありがとうございます。
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