書評|木村盛武著「慟哭の谷 (共同文化社)」

書籍

先日読了した吉村昭著「羆嵐」。同作品を手掛けるきっかけとなったといわれる書籍が今回紹介する「慟哭の谷」です。

「羆嵐」では、多くの気づきを得られて教訓本というような位置づけで読ませてもらいました。

同じ事件を取り扱っている本書を読むことで、更に気づきを得られるかもしれないという期待を込めて手に取って読んでみました。

今回は、そんな書籍についての内容となります。

基本情報

引用:「慟哭の谷」

まずは、本書の基本情報です。

書籍の基本情報

題名:慟哭の谷(どうこくのたに)

著者:木村盛武

出版社:共同文化社

発売日:2015/04/10

ジャンル:ノンフィクション

媒体:電子書籍(Kindle)

本の長さ:186ページ

概要

本書の内容

死者8名に重傷者2名という国内史上最大最悪の熊害事件となった、北海道苫前村の「三毛別羆事件」。その生存者達から集めた貴重な証言をベースに、元林務官である著者が綴った脚色無しの完全なドキュメンタリー作品となっています。

小説と異なり、登場人物にか知りえない心の描写やセリフなど、筆者による脚色は無く、生き延びった村民からのインタビュー内容と状況証拠を淡々とならべ解説した内容となっています。

要所要所に差し込まれる、モノクロ写真やイラストなどもさらなるリアル感を醸し出しており、事件簿を紐解いているように読み進めることができる作品です。

著者「木村盛武」

木村盛武は、1920年(大正9年)に北海道札幌市に生まれた国内ノンフィクション作家です。

林務官の父を持ち、幼いころよりその父親から「三毛別羆事件」についての話を聞かされて、強い衝撃を受けて育ちます。

その後に入学した北海道庁立小樽水産学校の在学中に自身も熊害に巻き込まれ、以降、熊に関して更なる強い関心を持つようになります。

小樽水産学校を卒業した後は、一旦はタラバガニ検査の仕事に就くも、最終的には北海道庁林務官となり、20年が過ぎたころに古丹別営林署に配置転換されたことを期に、長く心に秘めていた「三毛別羆事件」への調査を開始します。

そして、生き延びた当事者たちやその子供たちへのインタビューを敢行、それらをまとめて「獣害史最大の惨劇苫前羆事件」として旭川営林局発行の雑誌「寒帯林」に発表。同事件について広く世間に知らせることに一役買うこととなりました。

これ以降は、羆だけでなく野生動物全般に対する執筆活動に取り組み、さまざまな著書を世に出しましたが、2019年(令和元年)に急性肝不全により99歳でこの世を去りました。

著:木村盛武
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本書を読んだ感想

引用:「慟哭の谷」

ここからは、本書を読んだわたしなりの感想について述べていきます。

本書は、吉村昭氏の「羆嵐」と同じ事件がベースとなっていて、どうしても比較されてしまうようですが、巷で言われているように、脚色によりドラマ色の強まった「羆嵐」よりも、事実だけを淡々と解説していく本書のほうが、個人的には恐怖感を煽られる結果となりました。

実際に、この本を読み終えてから2,3週間は、15年間の登山活動のなかで一度も感じたことの無かった単独登山での心細さというものを味わされることとなりました。

ただし、怖さだけを感じたという訳ではなく、熊の襲来にびっくりして失態を演じてしまった人々の滑稽な様に、失礼ながらも笑わされたりする場面もあり、飽きることなく最後まで読了することができた作品です。

唯一、いまいちに感じた点は、科学的照明のできない被害者たちの類似点を不思議な共通点としてまとめて説明している章で、折角のリアル感が薄まってしまったような感覚を受けることとなりました。

そんないまいちな点もあるものの、熊害というものがどのようなものかを知るには最適な一冊であることは変わりません。興味のあるなしに関わらず、手に取ってみることをお勧めします。

著:木村盛武
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まとめ

国内史上最大最悪の熊害の事件簿「慟哭の谷」についての書評でした。

大げさな脚色が一切無い、淡々と事実だけを述べていく内容は、恐ろしさを感じつつもとても読みやすく、スルスルと最後まで読み進めることができる作品だと思います。

対象が本州には生息していない羆ということではありますが、熊の危険性というのを把握しておくためにも一度は手に取って読んでみるのが良いかと思います。

また、同事件を取り扱った吉村昭著「羆嵐」についての書評へのリンクも掲載しておきます。こちらもお読みいただき比較なさってもらえたら幸いです。

それでは、ここまでお読みくださりありがとうございます。

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