コロナ過の影響で、入山する人間が減ったためなのか、山中の食べ物が減ったためなのか、ここ最近になって、熊出没のニュースを目にすることが増えてきました。
2021年現在、7月に発生した北海道福島町で女性が襲われた被蓋を筆頭に、道内では過去最多の11名の死傷者を出しており、警戒が強まっています。
わたしの住む関東圏でも、同年に群馬県で4名の方が熊害にあっており、対岸の火事とは言い切れない状況です。
そこで、熊撃退用のアイテムとして知名度の上がってきた熊よけスプレーについて、適切なものを選ぶポイントと噴射する方法について解説していきます。
山行中に熊に出くわしてしまったとしたらどうすれば安全に危機回避できるのかと不安を感じているあなたに対して、有益な情報になれば幸いです。
熊よけスプレーを選ぶポイント
まずは、熊よけスプレーを選ぶときのポイントについて解説していきます。
使用期限
熊よけスプレーを選ぶ7つのポイント1つ目は「使用期限」です。
熊よけスプレーには、問題無く使用できる期限が設けられています。
これは内包しているガスの圧力が低下せずに十分な飛距離を確保できる期間で、概ね製造から3年から5年ぐらいの期間が設定されているはずです。
購入したら、まずは期限切れになっていないか確認するようにしましょう。
利用対象
熊よけスプレーを選ぶ7つのポイント2つ目は「利用対象」です。
日本国内には、北海道に生息しているヒグマと、本州以南に生息しているツキノワグマの2種類がおり、熊よけスプレーも対象毎に別の製品が存在しています。
一般的には、ヒグマのほうが体格が大きいため、ヒグマ用と銘打っているスプレーのほうが威力が強力で飛距離も長いものとなっていますが、その分、誤って人体に噴射してしまったときに与える危険性も大きくなります。
このため、ヒグマ用のスプレーは北海道以外では利用不可としている製品もありますので、購入するときにはしっかりと確認するようにしましょう。
有効射程距離
熊よけスプレーを選ぶ7つのポイント3つ目は「有効射程距離」です。
熊よけスプレーの中には、持ち運びに容易なコンパクトなタイプも多数販売されています。
ただ、コンパクトであればあるほど、内容量が少なく射程距離も短くなりがちです。
射程距離が短いということは、確実に的に当てるために近くまで近寄る必要が生じてしまいます。もしくは、標的が至近まで近づいてくるまで待ち続けないといけません。
しかし、この場合の標的は殺傷能力をもっている野生の熊となるので、近づかれれば近づかれるほど、危険も増して冷静でいられなくなる恐れがあります。
従いまして、コンパクト過ぎるものは避けて、ある程度の射程距離を持ったスプレーを選ぶようにしたほうが良いです。
一般的には5m程度はあったほうが良いように思います。
有効噴射時間
熊よけスプレーを選ぶ7つのポイント4つ目は「有効噴射時間」です。
「有効射程距離」の他に「有効噴射時間」というのも意識しておく必要があります。
例えば、射程は長く離れた位置から噴射することができたとしても、それが1から2秒しか保てないとなると、確実に的に当てるのが難しくなります。
標的となる熊は生き物ですので、常に動きます。
この動く標的にたいして成分を確実にヒットさせるには薬剤を噴射している時間が長いほど有利です。
スプレーを選ぶときには「有効噴射時間」についても確認しておくようにしましょう。
こちらについては一般的には5秒程度はあったほうが良いように思います。
成分
熊よけスプレーを選ぶ7つのポイント5つ目は「成分」です。
熊よけスプレーの成分は、水性のものと油性のもの2種類が存在しています。
効果の持続性を考えるのであれば油性のものを選べば、間違い無いです。
油の落ちにくさで、長い間効果を発揮して熊が逃げ出す可能性が増します。
反面、誤って自分の手や体についてしまった場合は、水性のほうが助かります。
山行中は、油成分を綺麗に拭き取れるような手段はほとんどありませんので、一度ついてしまった成分は、下山するまで付着したままになることが予想されます。
このようなリスクを回避するために、水で洗い落とせる水性のものを使うということも間違った判断ではありません。
例えば、直ぐに下山可能な日帰り山行の場合は油性のものを、下山までに長時間を要する連泊縦走山行の場合は水性のものといった具合に、使い分けするのが良いかもしれません。
安全装置
熊よけスプレーを選ぶ7つのポイント6つ目は「安全装置」です。
熊よけスプレーは熊を撃退する威力を持っているので、誤って人間に噴射してしまうと大事故につながる危険性があることは先にも述べました。
この危険性を緩和するため、各スプレーには誤噴射を防止するための安全装置が取り付けられているものがほとんどです。
ただし、この安全装置はメーカーによってまちまちで、あるものは複雑すぎていざというときに手間取ってしまったり、あるものは簡単すぎて使うまえに外れてしまったりというものも存在しているようです。
スプレーを選ぶときには、この安全装置の有無と、その機構の作りについても予め確認しておくようにしましょう。
大きさ、形状
熊よけスプレーを選ぶ7つのポイント最後の点は「大きさ、形状」です。
標的となる熊にスプレーを確実に当てるには、「有効射程距離」と「有効噴射時間」が長ければ、長いほど有利に働くことはすぐに想像できるかと思います。
しかし、この2つが長いということは内容量が多いということとなり、その分、形状が大きく重くなってしまいます。
わたしたちが利用するシーンはあくまでも山行中の熊遭遇時なので、あまりに大きいと取り回すのが大変ですし、重ければ重いほど荷物になってしまいます。
射程距離5m前後、噴射時間5秒前後を保持する中で、できるだけ細くて軽いものを選ぶようにしましょう。
熊よけスプレーを噴射する方法
ここまで、熊よけスプレーの適切な選び方のポイントについて解説してきました。
ここからは、実際に熊よけスプレーをスムーズに使えるように噴射する手順について説明していきます。
あわせて、使用する際の注意点についても述べておきます。
熊よけスプレーを噴射する手順
噴射する手順は次のとおりです。
熊よけスプレーを使うのはほぼ野外になりますので、風の影響をなるべく受けないように、できるだけ至近から目や口といった顔に目掛けて発射する必要があります。
そして、安全装置を外すことに手間取ってしまうと、スプレーを使う前に反撃される可能性が出てきてしまいますので、スムーズに取り外す必要もあります。
これらを頭の中だけでイメージして、ぶっつけ本番で成功させるのはなかなかに厳しいと思われます。
熊との遭遇は命がけのアクシデントでもありますし、冷静に対処している余裕はないかもしれません。
お金はかかるので強くオススメすることはできませんが、予行演習用のものも購入して、一度は試し打ちしてみておくほうが良いかと思います。
熊よけスプレー使用上の注意点
続いて、使用上の注意点です。
噴射するときの風向きに注意する
熊よけスプレー使用上の注意点1つ目は「噴射するときの風向きに注意する」です。
どんなに長い射程距離をもったスプレーでも、強風の中で風下から発射したのでは自爆するだけという結果になってしまいます。
可能な限り風上の方向に回り込んでから使うようにしましょう。
噴射方向に人がいないことを確認する
熊よけスプレー使用上の注意点2つ目は「噴射方向に人がいないことを確認する」です。
熊よけスプレーは熊を撃退するほどの強力な刺激成分が含まれています。
これを人間が吸い込んでしまうと、最悪の場合、病院に担ぎ込まないといけないくらいヒドい状況になってしまいます。
無闇矢鱈と噴射するようなことはせずに、まずは周囲の状況を把握してから使用するようにしましょう。
使い終わったスプレー缶は必ず持ち帰ってから処分する
熊よけスプレー使用上の注意点3つ目は「使い終わったスプレー缶は必ず持ち帰ってから処分する」です。
山で出したゴミは全て持ち帰るというのは、常識の範囲に含まれることですが、特に使い終わった熊よけのスプレー缶は忘れずに持ち帰って処分するようにして下さい。
このスプレーの内容物は危険物扱いされる類のものです。
何かの拍子に、残っていた内容物が漏れ出したりすると、環境に対して悪影響を及ぼす可能性がでてきます。
面倒でも、しっかりと持ち帰るようお願いします。
熊に出くわさないようにするための方法
ここまで、熊よけスプレーについて解説してきましたが、スプレー1本だけで本当に熊を撃退できるものなのか不安に感じるかと思います。
その考えは非常に正しくて、本来、熊よけスプレーを始めとした撃退グッツは最終手段的な位置づけの品々です。
まずは熊に出くわさないように策を講じておくことのほうが何十倍も大事になってきます。
そこで、ここからは熊に出くわさないようにするための方法について解説していきます。
熊に関する基礎知識を蓄えておく
熊に出くわさないようにするための方法1つ目は「熊に関する基礎知識を蓄えておく」です。
相手は生き物なので、100%こうすれば大丈夫ということは言い切れませんが、正しい基礎知識があれば回避できるシーンも沢山在ることは否定できません。
関連する書籍を購入したり、図書館で借りたりして日頃から基礎知識を蓄えていくことが、熊に出くわさないための第一歩になります。
最初は、あまり食指も動かず退屈に感じるかもしれませんが、徐々に頭の中に知識が溜まっていくと、様々な発見が出てきて面白くなってきます。
簡単なものからで良いので、まずは1冊読んでみてください。
なにから読めばよいか指針がほしいという場合は、環境省から「クマ出没マニュアル」というのが発行されています。巷に出ている熊関連の本に引けを取らないボリュームあります。無料で読めますので、まずはここから始めてみて下さい。
赴く山域での熊情報を確認しておく
熊に出くわさないようにするための方法1つ目は「赴く山域での熊情報を確認しておく」です。
各行政機関からは、随時、熊出没に関する情報が発行されています。
最低限、これから入山しようと思っている山域での熊目撃情報は抑えておいたほうが良いでしょう。
特に、熊による死傷者は絶対に確認しておくべきです。一度でも人間を襲ったことのある熊は、再度襲うようになると言われています。そのような熊が駆除されずに徘徊しているような山域は、近づかないほうが無難です。
自分だけは大丈夫なんていう、根拠のない自信は早々に捨てて、別の安全な山域に行き先を変更するなりしてください。
以下は、関東圏の熊目撃情報の掲載されている行政機関のHPリストです。山行計画を立てる際の参考にしてくださいね。
奥多摩ビジターセンターホームページ(奥多摩)
神奈川県公式ウェブサイト(丹沢)
埼玉県秩父市ホームページ(奥武蔵)
山梨県ホームページ(奥秩父・南アルプス)
熊から避けてくれるような対策しておく
熊に出くわさないようにするための方法1つ目は「熊から避けてくれるような対策しておく」です。
熊は、犬並みに嗅覚が発達している生き物で、聴覚はそれほど敏感では無いと言われています。
それでも、人間に比べれば、とても耳が良いので音の出るものを身に着けて置くことで、こちらの存在を知らせることができます。
そこで、熊鈴やラジオといった常時音の出るグッツを携帯することで、こちらの存在をアピールして、熊の方から回避してもらうといった手段をとることが、世間一般では推奨されています。
ただ、これに対しては反論もあって、一度でも人間や人間の持つ食べ物を襲った経験のある熊にしてみれば「熊鈴等の音 = 人間の存在 = エサ」という構図が成り立ち、寧ろ、襲われる原因になるといった意見も散見されます。
また、近年の熊は人を恐れなくなったので、音を出したくらいじゃ逃げ出してくれないといった意見もあったりします。
一理ありそうな意見ではありますが、数々の行政機関や熊専門に取り扱っているNPO団体などから、熊鈴などに有効性はあるという意見が出ていますので、そのあたりも考慮して判断してもらえたら幸いです。
以下に、熊鈴の有効性について検証した記事へのリンクを置いておきます。興味ありましたら、合わせてご確認下さいね。
まとめ
熊よけスプレーの選び方から使い方、使用上の注意に、そもそも熊に出くわさないようにするための方法と一通り説明してきました。
一昔前に比べて、熊よけスプレーも通販などを使うことで容易に手に入るようになりました。
その分、粗悪な製品を購入してしまうリスクも増しているように感じます。
今回紹介したポイントを踏まえて、いざというときしっかりと効果を発揮するものを選んで購入してくださいね。
それでも、熊に出くわさないに越したことはありません。
スプレーを準備するのと合わせて、関連知識や情報収集も怠らないようお願いします。
それでは、ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
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