ここ数年、「疲労」による山岳遭難というのが目立つようになってきました。
山遊びに来ているのに、疲れて動けなくなるまで歩き続けるというのは考えづらいですし、道を見失って右往左往していての遭難なら理由は「道迷い」となるので、それ以外の状況によるものだということになりますが、具体的にどのような状況に当たるのでしょうか。
今回は、疲労が遭難に繋がる原因やリスクを明らかにした上で、それらに対する予防策を解説していきます。
山で動けなくなるほど疲労が溜まってしまう原因
それではまず最初に、山で動けなくなるほど疲労が溜まってしまう原因について3つ述べていきます。
酸素不足
山で動けなくなるほど疲労が溜まってしまう原因の一つ目は「酸素不足」です。
人間は酸素が無いと生きていけません。
このため、血中の酸素が足りなくなってくると、血液の流れを活発にするために心臓を始めとした呼吸器官が活発に活動するようになり、そのことで疲労が溜まりやすくなると言われています。
加えて、酸欠の状態は、疲労物質を分解する働きを衰えさせるとも言われていて、この点でも疲労感を感じることとなります。
山での酸素不足(酸欠)というと真っ先に頭に思い浮かぶのは高山病ですね。
高山病は、急激に高度を上げたことで大気中の酸素が薄くなり、そのことに体の順応が追いつかず、頭痛や倦怠感を引き起こす症状ですが、重症になると激しい頭痛や嘔吐で行動不能になってしまうかなり厄介な病気です。
酸欠の状態で活動し続けることは、極力避けるのが賢明でしょう。
エネルギー不足
山で動けなくなるほど疲労が溜まってしまう原因の二つ目は「エネルギー不足」です。
山あなたもシャリバテもしくは、ハンガーノックという言葉はご存知でしょう。
体を動かすための栄養素が枯渇することで、気持ちに反して足が動かなくなってしまう症状です。
いわゆるガス欠というやつです。そしてこの状態のまま、無理やり歩き続けると強い倦怠感や意識の混濁が発生して、最終的には意識を失って行動不能に陥ることになります。
また、栄養素とは多少異なりますが、水分の不足によっても倦怠感を引き起こすことがあります。
エネルギー不足と合わせて水分の不足にも注意を向けておくのが良いでしょう。
急激な温度変化
山で動けなくなるほど疲労が溜まってしまう原因の三つ目は「急激な温度変化」です。
人間の体は、一定の体温を維持するための自律神経が備わっています。
この神経網により、体温が上がりすぎるときには発汗を促したり、血流の流れを早くしたりといった方法で体温を下げようとします。
逆に体温が下がりすぎるときには、毛穴を閉じて血流の動きを制限したり、体を振動させて熱を作り出したりといった方法で体温をあげようとします。
このような体温調整は全身運動です。長く続くと、体に疲労が溜まっていくことになり一定量を越えてくると、強い倦怠感や食欲不振を起こす原因となってくるようです。
山では常に外気に当たることを考えると、長時間に渡って急激な温度変化を受け続けてしまう恐れがあるので注意が必要です。
山で動けなくなるほど疲労してしまった場合のリスク
ここまで、山で動けなくなるほど疲労が溜まってしまう原因について述べてきました。
ここからは、疲労が蓄積してしまった場合にどのようなリスクを生じてしまうか、2つの点から解説していきます。
病気や体調不良に発展してしまう
山で動けなくなるほど疲労してしまった場合に生じるリスクの一つ目は「病気や体調不良に発展してしまう」という点です。
疲労感というのは、休憩を促す体からのシグナルです。
これを無視したまま活動し続けると、体のあちこちに無理を生じることとなります。
その結果、頭痛やめまい、食欲不振や嘔吐感といった体調不良を引き起こす可能性が出てきます。
更に無理して行動してしまうと、熱中症や低体温症、高山病といった病気を誘発して最悪の場合、意識を失って行動不能となってしまいます。
これが、疲労を蓄積させた場合に生じるリスクの一つになります。
正常な判断ができなくなってしまう
山で動けなくなるほど疲労してしまった場合に生じるリスクの一つ目は「正常な判断ができなくなってしまう」という点です。
強い疲労は、頭の働きにも悪影響を与えます。
意識が遠のいて注意力が散漫になったり、洞察力が衰えて正しい判断ができなくなってきます。
山の中でこのような状況に陥ると、道を間違えたり、足元の状況を見落として転倒したりと遭難に繋がる数々の原因を引き起こす可能性が高まってしまいます。
これが、疲労を蓄積させた場合に生じるもう一つのリスクになっていきます。
山で動けなくなるほど疲労しないための予防策
ここまでの説明で、山で疲れを溜め込むことはよろしくないということ理解いただけたと思います。
ここからは、疲れを溜めないためにどのようなことに気をつければよいか3つの予防策として説明していきます。
無理の無い計画を立てて自分のペースで歩く
山で動けなくなるほど疲労しないための予防策の一つ目は「無理の無い計画を立てて自分のペースで歩く」です。
これは、酸素不足による疲労状態をおこさないようにするための予防策となります。
山で酸素が欠乏する要因は、
- 標高が上がって空気中の酸素が薄くなる
- 強い運動により血中に酸素が行き渡らなくなる
この2つが考えられます。
これらの要因を防ぐもしくは軽減させるため、山中では無理をせずに一定のペースを維持してあるくことを推奨します。
ゆっくりと行動すると、高度を上げるペースが落ちて酸素が薄まる状況に体を慣らしながら進むことができますし、息を切らさない程度の運動量に抑えることができるので、血中の酸素も一定量に保つことができます。
このため、ゆっくりと行動しても十分に間に合うような山行計画を立てた上で、自分に合ったペース配分で歩くように心がけください。
定期的に水分やエネルギー補給をする
山で動けなくなるほど疲労しないための予防策の二つ目は「定期的に水分やエネルギー補給をする」です。
これは、エネルギー不足による疲労状態をおこさないようにするための予防策となります。
この対策は非常に単純です。行動食を持参して定期的にエネルギー補給をするということになります。
オススメは、アーモンド入りのチョコレートです。
チョコレートは即効性のある糖分補給となり、ナッツは持続力のある脂質の補給となるので、山向きの行動食と言えるでしょう。
欠点としては、チョコレートが熱に溶けやすい点でしょうか。
わたしも、取り出しやすいように雨蓋のポケットに入れておいたらドロドロに溶け出してちょっとした惨事になったことがありました。ご注意ください。
衣類脱着による温度調整をこまめに行う
山で動けなくなるほど疲労しないための予防策の三つ目は「衣類脱着による温度調整をこまめに行う」です。
これは、急激な温度変化による疲労状態をおこさないようにするための予防策となります。
山の服装の基本でもありますが、複数枚の服を重ね着して、状況に合わせてまめに脱着することで外気の温度差を調整すると効率が良いです。
そして、衣類の脱着は休憩地点に到着するまで待つ必要はありません。暑さを感じで汗が滲んでくる初期の段階や、寒さを感じ始めた段階ですぐに行うほうが効果的です。
例えば、暑さを我慢して汗だくになってから服を脱いでも効果は半減してしまいます。
少しでも温度差を感じたら実行に移すようにすると良いでしょう。
まとめ
今回は、近年目立ってきている遭難理由「疲労」について解説していきました。
心地よいレベルの疲労感は、ストレス発散に有効ではありますが、度を越した疲労はリスクにしかなりません。
無理な登山は避けて、自分のレベルに見合った山行計画のもと、楽しい登山を行ってくださいね。
最後に、過去発生した山岳事故を元に原因別の対策などをまとめた記事もあります。興味ありましたら、こちらも読んでいってくださいね。
それでは、ここまでお読みくださりありがとうございます。
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